〈2015.03.21 ナミビア・スワコップムント〉
夜中、開いた部屋のドアに人影を見た。
誰か部屋間違えたんかな?
・・・いや、ありえない。
この部屋はドミトリーといえども日本人しかいない。
おかしい!
立ち上がった瞬間、人影が秒速で消えた。
あやしい!
確信が欲しくて、充電していたパソコンを探した。
無い。間違いない。
きっと盗られたものはパソコンだけじゃないはず。
敵は既に建物の外に出ているだろう。
誰かを呼びに戻れば確実に逃げられる。
今ひとりで追いかければ間に合う可能性がある。
・・・
やっちゃいけないことだって長く一人旅をしていた私が一番理解している。
だけど、ずっとずっと一緒だったもの。ずっとずっと守り抜いてきたもの。
気付いたら全速力で走っていた。
でさ・・・間に合っちゃうもんなんだよね。
敵はちょうど塀をよじ登っているとこだった。
(どうする?)
答えを出すより先に身体が動いていて、気づけば敵の足を掴んでいた。
(うわぁ、やっちゃったぁ・・・)
敵も予想外だったのか、驚いた表情で一瞬動きが止まった。
正直、私も自分の行動が予想外ですよ。
しかし、間もなく相手も反撃開始!
敵が大きく拳を振り上げた。
(あー、やばいぞ。コレ。)
この時なぜか状況がすごくスローモーションに見えた。
(おっ、避けなきゃ。タイマンでは勝てないから逃がすのが賢明だ。)
この短時間で不思議と冷静な判断できたんだよね。
頭で考えた通り拳を避け、降参を示すため地に手を付いた。
敵も逃げることに必死だからか、追い打ちをかけることなく慌てて消えてしまった。
・・・
・・・
こ、こえぇぇぇぇ(((( ;゚Д゚)))
必死だったとはいえ冷静になると危険すぎる状況。
アホか、自分!無謀にもほどがあるぞ!
相手が何の武器も持たない体当たり型の強盗で本当に良かった。
とりあえず大声で叫んでみると、宿のみんなが集まってきてくれた。
「まだ犯人が近くにいるかもしれない。車で周辺を見てきてあげる!」と2組のご夫婦がすぐに行動を起こしてくれた。
なんとも有り難い。
その間にやるべきことがある。部屋に戻って盗まれたものを確認しなきゃ。
・・・全部やられたな。サブバックごと。
パスポート、現金、カードなど旅に絶対欠かせないもの全てが入っていた。
だけど、取り乱すこともなかった。涙すらも出なかった。
「ついに来たか。」
盗難・強盗を想定していない旅人はいないはず。私だって当然想定していた。特に一人でいるときはなおさら気を付けていた。
旅の過程で「私は絶対に大丈夫!」なんて自惚れたことなんてなかった。現実にスリランカでスマホ盗られたしね。
ただ、危機管理能力はここ最近は落ちていた。
日本人の仲間がいる安心感に怠けていたのかもしれない。車移動も部屋もプライベート空間のように感じてたと思う。
なんでだろう?
自分に対して投げかけた疑問だった。
敵に殺意を覚えるとか、ショックで悲しいとかそんな感情じゃない。
いつもしないことをこの日に限ってしていたこと、自分に隙がありすぎたこと、自分の手で大切なものを守り切れなかったことが悔しくてたまらなかった。
だけど落ち込んでるヒマはない。やらなければいけないことがたくさんある。
カードの利用停止、失った物のチェック、家族と大使館に連絡etc
ひととおりの作業を終えた頃には夜が明けていた。
真っ先に駆けつけてくれ、車も出してくれたエリカというマダムが「近くにバッグが捨てられているかもしれないから探しに行こう!」と言ってくれた。
近所の空き地、茂み、ゴミ箱の中・・・どこを探しても一切ない。
ダメだって分かってる。こんなことしてる自分が惨めで辛かった。
今の私に必要なのは警察の盗難レポート。
警察署に言って事情を話すと、ポリスは特に驚いた様子も無く手際よくレポートを作成していく。
そうか、これがアフリカなんだ・・・妙に納得しちゃった。
すぐにでも首都に戻って帰国の手続きをしなきゃいけない。
だけど、レンタカーの鍵は盗まれたメンバーのバッグの中。
さらに、レンタカー会社に連絡しようにも、この日は土曜日。実質動けるのは月曜からになる。
もどかしい。
車のこと、帰国のこと、事後処理のこと・・・考えることが多すぎる。
「出来ることから考えよう?」エリカの言葉だった。
「なんでそんなに優しいの?」
「私にも責任がある。」
「なんで?」
「オーナーだから。」
「(;゚Д゚)!」
はい、気付くの遅すぎね。
いつ帰国できるか見当もつかないから航空券も購入できない。そもそもパスポート無いから帰れない。
国籍不明住所不定無職無一文。
この状況を理解した瞬間、なんか吹っ切れた。
落ち込んでたって仕方がない。気分転換に町を歩く。
気持ちいい素敵な街なんだけど。
夜になって眠る頃、正直不安だった。
それを悟ったのか「大丈夫だよ、安心して眠りなさい。」エリカが声をかけてくれた。
この夜、警備員を4人も雇ってくれていた。
何度も「ごめんね」を言われた。
誰が悪いとか、誰がかわいそうとか、そんなことどうでもいい。
生きてる事実に感謝したい。
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